2004年9月13日に、我が家に新しい家族が加わりました。
彼らのカラーは、「Xカラー」と呼ばれています。
2002年の冬、私がはじめてスウェーデンのブリーダーさんに仔猫の問い合わせをしたとき、
最初のメールに「あなたはXカラーをブリードする予定があるか?
私は、私の猫とXカラーを交配されるの望まない」と書かれていました。
その時の私の返事は、「美しいカラーだと思うが私がXカラーを入れることはないだろう。
入れたとしてもあなたの猫とは交配しないことを約束する」というようなものでした。
それが、私が「Xカラー」を意識した最初のきっかけです。
当時はどちらかといえXカラーに対してば否定的なイメージを持っていましたし、
数年後に我が家にXカラーを迎えることになるとは夢にも思いませんでした。
しかし、2003年秋にドイツのキャッテリーを訪問したとき、
Xカラー(シナモン)の猫La
Lunaと会う機会があり、
私は、そのレッドともブラウンともつかない不思議なカラーにすっかり魅了されてしまったのです。
それから、Xカラーを繁殖されているキャッテリーにかたっぱしから問い合わせをし、
Xカラーについて海外の知人ブリーダーにも相談するようになりました。
しかし、Xカラーについては否定的な情報や意見が多かったのも事実です。
それでも、自分の目でXカラーの猫の成長を見たいという野望を捨てることはできず、
とうとう、リンダ&ヒデキを我が家に迎えることを決めました。
日本では、Xカラーについての情報がまだまだ少ないように思われるため、
私がこれまで得ることができた情報をこのページにてご紹介させていただきます。
私の誤解や情報不足の点も多々あるかと思いますし、私の推測もかなり含まれておりますが、
その点はどうぞご了承くださいませ。
リンダ&ヒデキの成長過程も随時ご紹介させていただく予定ですので、どうぞお楽しみに!
リンダ
アンバー・スポテッドタビー&ホワイト
※シナモン、ゴールデンと呼ばれることもあるカラーです。
ヒデキ
ライトアンバー(スポテッドタビー)&ホワイト
※フォーン、ブルーゴールデンと呼ばれることもあるカラーです。
Xカラーの誕生
1992年、スウェーデンのWildwooodというキャッテリーでImerとIrosという変わったカラーの仔猫が生まれました。また、1994年にはドイツのTakeskogというキャッテリーでBedellinという、同じく変わったカラーの仔猫が生まれました。これらの共通の祖先は、Klofterhagen's
BabuschkaとNiro's Dunderです。そして、Babuschkaは、ノルウェージャンフォレストキャットの元祖とされている、Pan's
Trulsの子孫です。
Imer,Iros,Bedellin等のカラーは、それまで公認されていたカラーでは説明がつきませんでした。これらの子たちのカラーは、最初、チョコレート(xb)とライラック(xc)と考えられましたが、成長とともにカラーが変化し、シナモン(xo)とフォーン(xp)と考えられるようになり、それに伴う登録変更がなされました。現在スウェーデンのノルウェージャン・データベースを見ると、Imerはブルーゴールデン(ay)、Irosはゴールデン(ny)として登録されています。
Xカラーとは? かつては、シナモン、チョコレート、フォーン、ライラック(ラベンダー)の4色がXカラーだとされていました。なお、チョコレートがダイリュートされた色がライラック(ラベンダー)で、シナモンがダイリュートされた色がフォーンです。これらのカラーは、本来ノルウェージャンには産まれないはずの色だということで、公認されませんでした。(FIFeでは、カラーをEMSコードという記号で表しますが、未公認カラーのコードが「x」であることが、「Xカラー」というネーミングの由来と思われます。ちなみに、「y」はゴールデン、「a」はブルー、「n」はブラックを表します)。
シナモン(ゴールデン)、と呼ばれる猫は、子猫のときは明るいブラウンあるいはブラウントービーのように見えますが、成長とともに色が明るくなり、大人になるとほとんどレッドに近い色合いになります。フォーン(ブルーゴールデン)、と呼ばれる猫は、子猫のときはブルーあるいはブルートービーのように見えますが、成長するとクリームに近い色になります(ネット上で写真を見ての私の印象です)。
また、Xカラーの猫は肉球と鼻がこげ茶のような色をしていることも特徴だそうです(特にシナモンの子でそれが顕著なようです)。
チョコレート、ライラック(ラベンダー)というカラーについては、それ自体独立したカラーではなく、成長の過程の一時期のカラーに過ぎない、と私は考えています。要するに、Xカラーは2色、ということだと私は理解しています。ただ、ドイツなどの一部のキャッテリーには、「チョコレート」と紹介されているノルウェージャンが存在しますが、少なくともゴールデンやアンバーという呼称は、シナモンとチョコレートを包括する概念だろうと考えています(同様に、ブルーゴールデンやライトアンバーはフォーンとライラックを包括していることでしょう)。実際、ドイツのキャッテリーで「チョコレート」と紹介されている猫と同じようなカラーの猫が、スウェーデンやオランダで「ゴールデン」と紹介されていた記憶があります。
別な説明を試みましょう。例えば「ブラウン」というカラーでも、赤茶に近い明るいブラウンから黒の部分が多い暗いブラウンまでかなり幅があります。それと同様、「ゴールデン」「アンバー」と呼ばれるカラーにも幅があり、明るいカラーを一時期(あるいは一部のブリーダーが)「シナモン」と呼び、暗いカラーを「チョコレート」と呼んでいたということも言えるのではないでしょうか? 他のカラー同様、ひとつのカラーに幅がある上、Xカラーは成長とともにカラーが変化することから、その定義や登録カラーがややこしくなっているように思います。つまり「2色である」というより、「2色での登録を認めれば足りる」ということのようにも思われます。Xカラーの仔猫が産まれたとき、シナモンなのかチョコレートなのかを判断するのは難しいでしょうけれど、シナモンあるいはチョコレートの「濃い色」なのかフォーンあるいはライラックの「薄い色」なのかを見分けるのはたやすいだろうからです。
Xカラーの新しい名前
その後、スウェーデンでXカラーのノルウェージャンとフォーンのソマリとのテスト交配が行われましたが、シナモン、フォーン、チョコレート等の仔猫は生まれませんでした。つまり、ノルウェージャンのXカラーは、シナモン、チョコレート、フォーン等ではないということになったのです。
そこで、スウェーデン等では、Xカラーを「ゴールデンタビー」「ブルーゴールデンタビー」として登録するようになりました。しかし、このカラー名にはひとつの問題があります。Xカラーはシルバーとも結びつき、シナモンシルバーの猫もたくさんいるのですが(フォーンシルバーの猫はネット上でも今のところ見たことがありません)、「ゴールデンシルバー」とするとなにやらおかしなことになってしまいます。ゴールデンとシルバーはどちらかにしかなりえず、両方の色が発現することはありえませんから……。そこで、スウェーデンのブリーダーさんは、「シナモンシルバー」を「ゴールデン with
シルバーの遺伝子」というように表現されているようです。
Xカラーをなんと呼ぶかについてはドイツでも盛んに議論され、「Foxy(キツネ色)」「Brass(真鍮)」などの意見も耳にしたことがあります。
その後、ドイツの大学でシナモンのノルウェージャンとチョコレートのバーマンのテスト交配が行われましたが、やはりシナモンやチョコレートの子猫は生まれませんでした(ブルーやブラックの仔猫だけが産まれています)。そのレポートがFIFeの審査員の会議に提出された結果、FIFe傘下のドイツのキャットクラブ、DEKZeVでは2005年度より「Amber(琥珀色)」「Light
Amber」という名前で登録が認められることになったそうです(EMSコードは「t」「at」)。琥珀色の猫、なんて素敵ですね♪
※ポルトガルにおけるFIFeのゼネラルミーティングで、Xカラーが認められた、という記事を読みました(ドイツのキャッテリーサイト)。実際に、スウェーデンのXカラーのブリーダーさんもアンバー・ライトアンバーと呼び始めているので、FIFe全体で認められたということでいいんだと思います。ただFIFeの公式サイトなどではまだこのことに関する記事を見つけられていません(2005.1.4)
Xカラー賛否両論
Xカラーについては賛否両論があります。反対派の理由は「ノルウェージャンに本来ない色で、他の猫種の血が混じっている」ということと「健康でない」ということがあげられるようです。
しかし、各種テスト交配の結果からノルウェージャンだけに見られる独特のカラーであるということがわかりました。しかも、最初のXカラーの祖先は、ノルウェージャンの元祖である猫だったというのです。ここで、ノルウェージャンフォレストキャットという猫のルーツを今一度考えて見たいと思います。
動物学者によると、野生猫が生息できる北限はスコットランドで、スカンジナビアに野生猫はいなかったそうです。そしてノルウェージャンの祖先は、バイキングがトルコから運んだ長毛種だという説があります。バイキングが東洋のビザンティン帝国との間に通商用の航路を持っていた11世紀頃、交易品として猫がトルコからノルウェーに連れてこられたそうです。その地域の猫の毛色は、ヨーロッパでは滅多に見られないけれど、トルコでは多く見られるそうです。長毛の大型猫は寒さの厳しいスカンジナビアの気候に適していたこともあり、ネズミ退治のために飼う農家が増えました。戸外で飼われた猫たちがさらにスカンジナビアの厳しい自然に対応できるように進化していったと考えられています。(参考文献「猫種大図鑑」(ペットライフ社))
スカンジナビア半島には土着の野生猫がおらず、11世紀に東洋から連れてこられた猫が野生化したものがノルウェージャンの祖先であるとするなら、「シナモンやフォーンは他の猫の血が入っていなければ産まれないのだから、ノルウェージャンとして認めない」という考えの前提が揺らいでくるのでは?と私は思います。しかも、これらのカラーがシナモンやフォーンではなく、ノルウェージャン独自のカラーだという研究報告も出ている今となっては、なおさら、この反対意見は根拠を失うのではないでしょうか?
「健康でない」という点、残念ながらこれはひとつの事実のようです。多くのXカラーの猫が早死にしているということは、何人ものブリーダーさんから指摘されました。また、「Xカラーの猫、特に雌は身体がとても小さい子が多い」という指摘もあります。しかし、いろいろ質問を繰り返すと、「Xカラー自体が特定の疾患と結びついているわけではない。ただ、Xカラーを固定するために、インブリードが繰り返され、インブリードの弊害として病弱な猫や小さな猫が多くなってしまっている」ということも、多くのブリーダーさんの共通の意見でした。
この点につき、スウェーデンのベテランブリーダーさんから、「健康なXカラーの猫を繁殖をしたいなら、Xカラーの猫同士を交配しなければよい」というアドバイスをいただいております(おそらく、スコティッシュフォールドの折れ耳同士をかけてはいけないことと同じ理由でしょう)。
Xカラーの遺伝子について
はっきりと文献等で確認したわけではなく、数人のブリーダーさん等とのやりとりから私が推測していることですが、Xカラーは劣性遺伝子だと思います。私が得た情報は、「両親がXカラーの遺伝子を持っていないとXカラーは産まれない。両親ともにXカラーであれば、生まれる子猫は全員Xカラーとなる」ということです。
おそらく、XカラーではないがXカラーの遺伝子を持っている猫同士だと、Xカラーの仔猫が産まれる確率は1/4、Xカラーの猫と、XカラーではないがXの遺伝子を持っている猫との交配で産まれる仔猫の半数がXカラーとなるだろうと予想されます。Xカラーの猫を多く産ませようとして、Xカラー同士の交配をするとインブリードの弊害(遺伝子がホモとなり、遺伝疾患が発生する確率が高くなる)が出てきやすくなるのではないかと思います。
シナモン(ゴールデン、アンバー)の猫が、ダイリュート遺伝子(dd)を持つとフォーン(ブルーゴールデン、ライトアンバー)となります。シルバーの遺伝子(I)を持つと、シナモンシルバー(アンバーシルバー)、フォーンシルバー(ライトアンバーシルバー)となります。
なお、ノンアグーティ(縞なし)のXカラーを私は見たことがありませんが、多くのブリーダーさんは、ノンアグーティのXカラーもありうるだろうと考え、その誕生を待っているようです。
ちなみに、Xカラーとは関係ない一般論として、チョコレートやシナモンというカラーはブラックの色素の異常(アルビニズム)です。ブラックの色素ユーメラニンが作られる過程で、アミノ酸の一種チロシンが変化していきますが、オキシターゼの酸化がうまくういかず黒化しなかったものがチョコレート、重合がうまくいかず色素の粒が小さくなることで全体の色が薄くなったものがシナモンです(参考:服部幸正氏のカラー遺伝の勉強会(TICA・ブリリアントキャットクラブ主宰))。
この勉強会で、Xカラーについて質問してみたのですが、やはりブラックの遺伝子に何らかの異常のあるアルビニズムの一種であろう、とのお答えでした。Xカラーの特徴のひとつは、カラーが次第に明るく変化していくことにありますが、この点も、アミノ酸の量の増減といったことから説明が可能だそうです(小さい頃は少なかったアミノ酸が成長とともに増えていくことにより、カラーが変化する、というような可能性は大いにありうるそうです)。
まだまだ未知の部分が多いXカラーですが、それゆえにとても魅力的な興味深い存在だと私は思っています。
各団体によるXカラーの登録の違い
ちなみに、日本(アメリカ)では、TICAという団体がノルウェージャンの「ゴールデン(ブルーゴールデン?)」「シナモン」「フォーン」を公認していますが、CFAという団体は、ノルウェージャンの「シナモン」「フォーン」「チョコレート」「ライラック(ラベンダー)」を認めていません。つまり、「ゴールデン」というカラーでなら、TICA、CFAともに登録できるのです。ただし、ショーに出陳した際、「このカラーはゴールデンとは認められない」と指摘される可能性もあります。その場合、TICAなら、「シナモン」「フォーン」にトランスファーできますが、CFAでは未公認カラーということになり、ノルウェージャンとして登録することはできなくなってしまいます(祖先にXカラーがいるノーマルカラーの猫もCFAには登録できません)。
他の猫種(フォーン、チョコレート)とのテスト交配の結果、シナモンやフォーンといったカラーではないことが判明し、また、シルバーとの組み合わせのことも考えなければならない以上、ノルウェージャン特有のカラーとして新しい呼び名を認める、という方向が妥当だと私も思います。TICAやCFAでも、アンバー、ライトアンバーあるいはこれに変わるカラー名称が認められることを願っています。
蛇足ですが、FIFeにおいてノルウェージャンのシナモン、チョコレート、フォーン、ライラックは公認されていないために「X」カラーとなりますが、ゴールデンやアンバーといったカラーで公認されている以上、もはや「Xカラー」ではないんですよね。ましてやTICAでは、もともとノルウェージャンのシナモン、フォーンが公認されているのですから、「Xカラー」と呼ぶことが妥当ではないはずです。とはいえ、これらのカラーはノルウェージャンではまだまだ珍しいですから、便宜的にXカラーと呼ぶことが今後も続くことでしょう。
各団体で認めらているXカラー
TICA (アメリカ・日本) |
CFA (アメリカ・日本) |
FIFe (ヨーロッパ) |
シナモン/ ゴールデン |
ゴールデン |
アンバー(t) |
フォーン/ ブルーゴールデン |
(ブルーゴールデン) |
ライトアンバー(at) |
シナモンシルバー |
|
アンバーシルバー(ts) |
フォーンシルバー |
|
ライトアンバーシルバー(ats) |
※FIFe全体が、アンバー・ライトアンバーを認めたという理解でよさそうです(2005.1.4)
当キャッテリーのXカラーブリードについて
我が家に新しく来たヒデキはブルーゴールデン・スポッテッド・タビー&ホワイト、リンダはゴールデン・スポッテッドタビー&ホワイトです。彼らはともにXカラーの猫であるばかりでなく、父親を同じくする異母兄妹でもあります。彼らを交配すると、かなり血統が近くなってしまうので、その組み合わせをすることはないでしょう。
また、我が家のジュリー&ヒロミという兄弟の4代前の先祖にImer(初代Xカラー)がいます。もしかしたら彼らがXカラーの遺伝子を持っているかもしれません。リンダとジュリーorヒロミを交配すれば、Xカラーの猫が生まれる可能性がわずかですが期待できます。そうでなければ、リンダとヒデキをそれぞれ血統の遠い他のカラーの猫と交配し、その子供同士を交配することでXカラーの子猫の誕生を待つことになります。
おそらく、我が家でXカラーの子猫が誕生するのは数年先になってしまうことと思います。病弱であることが心配されるので、健康診断は特に念入りに行いたいと思いますし、先天性疾患が発見されれば繁殖はしないつもりです。だから、我が家でXカラーの子猫が生まれることはないかもしれません。そのことも覚悟しつつ、リンダとヒデキを迎えましたが、いつか、健康で美しいXカラーの子猫が我が家に誕生してくれることを心から願っています。
なにはともあれしばらくの間は、リンダとヒデキのカラーの変化を日記等で一緒に楽しんでくださいね。また、Xカラーの猫に関しては特に健康に注意して繁殖していきたいと思いますが、将来、Xカラーの猫をご希望の方は、以上のような背景や事情をご理解くださると幸いです。また、このページは数人のブリーダーさんとのやりとりや、外国のウェブサイトなどをもとに私の推測を交えて作成したものであり、間違いや誤解のある可能性が高いことをご了承くださいませ。ご意見やご質問は歓迎致しますし、新しい情報を得られれば随時ご紹介させて頂きます。
最終更新日2005年7月15日
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